アート・デザイン表現学科では、毎週、各界の第一線で御活躍されている先生方を講師にお迎えし御講演頂く「宇宙・人間・アート」を開講しています。
11月25日の「宇宙・人間・アート」では、ヒーリング表現領域から、英国バーミンガム・シティ大学 美術学部 修士課程【Art, Health and Well-being】の開設者であり、前コースディレクターであるケイト・ブルーム先生をお呼びして『芸術の新たな可能性を巡って~健康、そしてウェルビーイングへ~』をテーマにご講演いただきました。
近年、日本でも病院やコミュニティーで行われている、全ての人のためのアート活動が注目されつつあります。しかし、その方針や概念について、まだ十分な議論がなされているとは言いがたい状況にあるといえるでしょう。将来を担う学生たちにその点を考えてほしいという願いを込めて、先進的な取り組みを行っているイギリスからケイト・ブルーム先生を招聘し、講演をしていただきました。学生たちは、新しい概念である「ウェルビーング」の訳を探りながら聞く90分間となりました。
何度でも立ち直る力や困難を跳ね返す力をつくってゆく、これこそがウェルビーングの大きな目的です。個人のウェルビーングの感覚はその人の行動や思考の方向によって形作られていることが科学的な根拠に基づいて明らかになり、この点において「芸術には、決定的な、重要な役割がある」とのことです。誰もが日常生活のなかでウェルビーングを向上させてゆくことができるように、2008年には新経済財団によって発表された5つの方法が紹介されています。
ウェルビーングへの5つの方法:
1. つながること
2. 行動すること
3. 気づくこと
4. 学び続けること
5. 与えること
バーミンガムシティ大学の大学院生が日常生活のなかで見つけたウェルビーングの写真、ロンドンの王立芸術アカデミーでの展覧会に聖クリストファーホスピスの患者が触発されてつくった作品や、チェルシー&ウェストミンスター病院の小児病棟での感染の危険性がなく最小限の身体機能で参加できるアート活動、クイーンエリザベス病院の中にある王立防衛医学センターでの戦争で傷ついた兵士たちの人生の質を高めるための包括的な取り組みを示す絵画など、様々な事例を見てゆくことで私たちはウェルビーングを向上させる方法と意義について理解を深めてゆきました。
ウェルビーングの物差しは、社会的な要因が大きく、文化的背景が盛り込まれたその国特有のものになると言えます。さて、日本ではどのようなものになるでしょうか。また、ウェルビーングの向上を参加者に豊かにもたらすアート活動とはどのようなものでしょうか。美術大学に所属する私たちが普段、何気なく行っているアート活動の意義について改めて考える貴重な機会となりました。